脳梗塞、脳出血、脳腫瘍による視野障害

「見えにくさ」を感じたとき、原因は眼にあるとは限りません。

よくあることではありませんが、時に頭の中に病気があって、眼の症状を引き起こす事もあります。

 

このページでは特に「視野が狭くなる」頭の病気について説明します。

 

なぜ頭の病気が見え方に影響するのか?

眼は光の明暗や景色を感じる「感覚器官」であり、目で感じた情報は脳で処理されます。その過程の、障害を受ける場所によって症状が左右されます。

これを理解するためには、まず、眼に入った光がどのように脳に伝えられ、どのように情報として認識されるのか理解する必要があります。

 

「ものが見える」しくみ

眼はものを見る器官です。そして、眼に入った光や景色は大脳で認識されます。

目で感じた光や景色は、網膜を刺激し、その情報は、「視神経」を通って、「大脳」に入り、「後頭葉」で処理されます。この信号の通り道を「視覚路」と呼び、頭の病気でどこかが障害されると、見えなくなったり、見える範囲が狭くなったり(視野障害)します。

 

視覚路

 

 

頭の病気と目の病気の違い

 

「頭の病気が原因」で起こる目の症状と、「目の病気」で起こる目の症状はどのような違いがあるのでしょうか?

頭の中の病気が原因で「視覚路」が障害された場合、眼からの情報が大脳に届かなくなります。ただし、目と脳は1本の神経線維のみでつながっているわけでないので、障害の程度が軽度であれば、見える範囲の狭くなる「視野狭窄」という状態になります。見えているけれど、一部分だけ見えにくい、見えない、という状態です。そして、この「視野狭窄」が重度になり、視野の真ん中が障害されると、はじめて視力低下の原因となります。

一方、目の病気では光そのものが目に入ってこなくなる、または感じにくくなるためため、「視力低下」が症状として現れやすくなります。

 

 

視野に影響する頭の病気

ここではいわゆる「脳卒中」、「脳腫瘍」による視野障害について説明します。

 

脳梗塞、脳出血

脳出血
さまざまな頭の病気、頭蓋内疾患のなかでも、もっとも眼と関連が深い病気は「脳卒中」です。「脳卒中」は脳梗塞、脳出血など血管障害の総称です。

もし、脳卒中で脳が障害されたとき、眼にはどのような症状がでるのでしょうか。

 

脳卒中が起きると、「半身不随」、つまり右半身が動かなくなる、左の手足が動かなくなる、といった「片麻痺」の状態になることがあります。眼に症状が出る場合も同様で、「片側」に症状が現れます。

つまり右眼も、左眼も、片側だけ見えにくくなる、片側の視野障害、「同名半盲」という状態になります。

大脳の中でものを見る機能を後頭葉にありますが、実際には目から大脳への信号が通る経路(視覚路)である、側頭葉から大脳基底核、後頭葉のいずれの部位が脳卒中で障害されても、視野障害は起こりえます。

一般的に発症直後からしばらくの間は若干症状が強なり、その後、やや改善し、半盲が残し安定することが多いようです。 実際の生活では視野が狭くなった側で気が付かないうちに体をぶつけてしまったり、体を引っかけてしまったりすることが問題となりますので、残っている視野を有効に使えるよう、顔の向きを少し横に向け、体の正面に十分注意を払えるよう訓練を進めることになります。

 

 

当院で可能な検査

視野検査

静的視野検査、動的視野検査の2種類がありますが、脳卒中のような疾患の視野評価には動的視野検査が必要です。静的視野検査では、検査範囲が狭いため、視野障害を見劣す恐れがあります。

下の写真は右大脳基底核の脳出血の患者さんのゴールドマン視野検査の結果です。両眼とも左側の下のほうが見えにくい、「左下同名半盲(1/4盲)」という視野障害を示しています。

脳出血による視野障害

脳卒中の場合、上述のように、発症からしばらく経過した段階で視野障害は固定もしくは完成します(よくも悪くもならない)。それにもかかわらず、症状が完成した後で視野検査を行う必要がある理由は、視野が欠けている部分に緑内障などの視野障害の原因となる病気が発生した場合に発見されにくく、放置されると、さらに視野が狭くなる恐れがあるため、と考えています。

 

OCT(光干渉断層計)

ここ数年、眼科の検査のなかでもっとも進歩している検査がOCTです。以前は頭の病気で目の網膜にある神経線維層は影響を受けないと考えられていました。これは目の神経が大脳に入った際に外側膝状体と呼ばれるところで神経線維を乗り換え、眼からの信号が大脳へ伝えられるので、大脳から目への「逆方向の影響」はないと考えられていた、ということです。最近のOCTによる検査の結果からは、頭蓋内疾患でも目の「網膜神経線維厚」が薄くなる様子が検出できることがわかっています。

 

OCT 脳出血患者さんの例

 

脳腫瘍

頭の中に腫瘍(できもの)ができた場合、眼から大脳に視覚情報を伝える経路(視覚路)を圧迫または直接障害し、見え方に影響を及ぼす場合があります。

もし大脳が強く障害された場合には、脳卒中で手足の片麻痺がでるのと同様に、同名半盲が出現します。 目からの信号が大脳に入る手前、視交叉と呼ばれる部分で神経が圧迫を受ける下垂体腺腫のようなトルコ鞍近傍腫瘍の場合は両耳側半盲と呼ばれる両目の外側(耳側)が見えにくいパターンの視野障害の原因となります。

脳卒中や脳腫瘍による視野障害の場合、視神経が障害された結果、視神経周囲の網膜が薄くなることがOCT(光干渉断層計)で測定されます。

MRI 右側頭葉腫瘍MRI 下垂体腺腫

当院で施行可能な検査

視野検査

静的視野検査、動的視野検査の2種類がありますが、やはり動的視野検査が必要です。視覚路への影響が軽度な場合、圧迫・障害のされた方次第では視野の外側部のみが障害される場合もあり、静的視野検査では、見落としの可能性があります。ただ、より鋭敏な検査は静的視野検査ですので、実際は両方の検査が行われることが望ましいと思われます。

視野検査 下垂体腺腫

OCT(光干渉断層計)

脳腫瘍による視覚路への障害の場合も「網膜神経線維厚」の減少は起こります。頭蓋内病変による視覚路への影響はさまざまですが、もし浸潤性ではなく圧迫性の障害がおこった場合はどうなるか。まず、起るのは視野障害であり、圧迫の程度が軽度であれば、手術などの治療で視野障害は改善します。この場合は手術前の「網膜神経線維厚」の減少はほとんどないか軽度です。 もし、重度の圧迫が視覚路に起こった場合はどうなるか?手術前のOCTの検査で「網膜神経繊維厚」が一定の割合を超えて減少していた場合は、手術によって圧迫が除去された場合でも視野障害は残る結果となります。

OCT 下垂体腺腫